カートリッジの聴き比べ テクニカ編
2003/11/7&2004/2/13

Shuks氏部屋での試聴から数ヶ月、一向に感想が書き上げられなかったのは、評価を下す事の難しさを久々に実感したからでした。ここまでずれ込んだのは、ひとえに私の遅筆の所為です。だぁーもすみません、本当にもう大変なんですから(三平風)。それでは当日の目玉、AT-33Rの感想も含むテクニカ編をお送りいたします(ご協力下さいました皆様には、改めて御礼申し上げます)。
その前に、当日聴いた他の針のコメントをちょっとずつ。「名作」ばかり口走ってますが、そこはお許しを。

デンオン
DL-305:春の小川を思わせる温度感と清らかさ、躍動感が魅力の名作
オルトフォン
MC 20super:ここでは不調。トランス受けで聴いてあげたかった。AORな纏まりの良さの名作なのだが…
MC 30super:同じくトランス受けで聴いてあげたかった。20superに艶っぽい滑らかさが付加された名作
Lyra
HELICON:解像度だけでなく、音の迫力や柔らかいハーモニーも再現できる名作
ZYX
R1000AIRY-V:ダイナベクターとは違う音だが表現は同じく「定規の様にニュートラル」な名作
調:所謂テクニカの音とは、高音に強調感のある細身の音だと思うのですが、それとは別物の穏やかな印象が先に立ちます。帯域バランスも良く、音が細身になる傾向も控えめです。しかし今日の試聴では、穏やか過ぎると言いましょうか、音の表情がさほど豊富ではなく思えてしまいました。
尤も、この後の上級機と比べての感想という事と、ローインピーダンスの針ですので、トランス受けでの評価をしてあげるべきだった点は差し引いて上げなければ可哀想なのですけれども…。
S:「穏やか過ぎる」とは美味い表現ですね。言葉に余り棘がありません。誤解を恐れずに単刀直入に申し上げれば、私の第一印象は「切れが悪い」「帯域全体にもやがかかっている」少し寝起きの悪い音でした。音像のステージ感も乏しくこじんまりしています。酷評で済みません。
36Eファンの方には申し訳ありません。我が家のシステムで聴く限りという大前提がつくことは勿論ですので、一般論化するつもりはございません。ピアノもシンバルもベースも春の霞がかかった風景を見るようでソフトフォーカス傾向でした。
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AT-37E(テクニカの最高級機AT-1000の次弟モデル、ルビーカンチレバー採用)
調:こちらもローインピーダンスなのでトランスを利用してあげられると尚良かったのですが、上級機だけあって、このままでも大変良好な音が楽しめますね。音場は奥深く展開し、穏やかで流麗、緻密さが感じられる音が楽しめます。賑やかなルビーの音が出てくるかと予想したのですが、全く逆の音なのでちょっと驚きました。質感はウェットというよりはサラッとした上品なものです。トランス受けでは更に力強さが加わります。
S:ルビーカンチレバーという先入観は抜きして、虚心坦懐に聴くと、細かい音がよく出ている、解像度が高く繊細な表現力がありますが、決して弱々しい音ではありませんね。ベースの弦を弾く音は力強く骨太なデティールが見えてきました。36Eとの比較でしたから余計音のハリが目立って聴こえたのかもしれません。これは是非トランス受けで聴きたいです。
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AT-ART1(CD時代のテクニカの意欲作、世界初のチタンボディ採用機)
調:一言で言ってしまうと、これはテクニカ伝統の音の延長上にあります。しかし音の粒立ちの良さでは33シリーズとの格の違いを感じさせますし、全般的に音が引き締まった感じがあって、なるほど現代的な針の先駆けだなと。しかしタイト一本槍のこの音は面白みに欠ける面があります。特定の低域を強調する癖も聴こえましたが、これはシェルの相性も関係しているのでしょう。
S:調の字さんには「癖」と聴こえた特定の低域が、私には逆に適度に引き締まった豊かさに転化して聴こえました(笑)。この低域はある意味で魅力があります。確かに硬いのですが、ブーミーさが気になる我が家のシステムでは、これくらいのタイト感はかえって調和が取れて聴こえますね。ベースの輪郭が出ている感じです。
ただ、JAZZ以外の 例えばクラシックのバイオリンとかチェロ等の音を聴くと、もう少し中域の量感が欲しいというか柔らか味が出て欲しいと思うかも知れませんね。我侭なもので、輪郭がはっきりしすぎると何だか情緒に欠けるようで幾らか聴き疲れしそうです。
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AT-ART2000(西暦2000年記念モデル、松下秀雄氏〜テクニカ会長〜の愛用機)
調:AT-36E,37Eでも、テクニカのイメージとは違う音でしたが、このモデルも全く独自の音がするので、最初驚いた覚えがあります。今日は取り上げませんでしたが、テクニカ30周年記念作のAT-OC30のボディと同系なので、最初は正直期待していなかったのですが(OC30は33系の音と大差ありません)、これは別物でして、とにかく音の厚みが印象的な、中域〜中低域が豊かに鳴る針です。と言ってもそこは日本製。SPUの様にコッテリ濃厚とまでは行かず、良い塩梅で留めています。音を引き締めていくタイプではありませんが、解像度に不満はありません。アコースティックなソースやクラシックを楽しまれる方に人気が高いのも肯首できます。
S:「MY FOOLISH HEART」では音場感がよく出ていますね。今回聴いたカートの中では1番サウンドステージが広がっています。高域が伸びきっており心地良いです。ただ高域方向に解像度がシフトされているようで、逆に低域が少し甘い。調の字さんとは逆に、高域が綺麗な分だけ、もう少し低域にキレが欲しいです。また今回聴いた中では、レコードの溝のノイズを一番良く拾っていました。
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AT-33R(現在のフラグシップ機)
S:日本的真面目さを追求していったらこんな音になった、という印象です。真面目さといっても四角四面で融通さが効かないというクソ真面目という意味ではありません。一音一音測定器の周波数データと照らし合わせながら、最終的には耳で全体域のバランスを取りながら丁寧に音決めをしたのかなと思わせる音です。ですからどの帯域にも特定の癖がなく、端正な音が出ている。
ピーターソンのエネルギー感もよく伝わってきますし、シグベンの繊細なシンバルの音もよく拾っている。ウエルバランスでオールマイティー、若干音の柔らかさも欲しいところですが、リファレンスと銘打つだけの事はあります。往々にして音楽性が豊かなカートはどこかの帯域に固有の癖を持っていると思うのですが、この33Rには耳につく嫌な音がありません。極めてフラットでしかも各帯域に量感もある。今回試聴したカートの中ではとても好印象でした。
調:この針については、Shuksさんとだけではなく、他お二人のシステムでも拝聴させていただきました。長くなってしまいますが、その体験に沿ってお話いたしたいと思います。
最初はMay_Wind☆氏宅です。ソースは室内楽に女性ヴォーカルを数種、アームはFR-66Sです。既に氏は、視聴記を公表されていらっしゃいますが、この時聞いた音の感想は私も同感でして、首を傾げざるを得ないものでした。テクニカ製ですから高音の抜けは当然ながら良く、低音も量感がありましたが、音の良さは全帯域ではなく、一部分ごとにしか感じられません。つまり、トータルとしての音の纏まりに欠けた、音楽性に乏しいものだったのです。途中、シェルを変更したところ、纏まりが向上いたしましたけれども、それでも値段を考えると到底評価できないレベルに終始しました。標準シェルでの音は、シスコンか?とさえ思った程だったのです。
こんな有様でしたので、正直期待せずにShuksさんとの試聴会に臨んだのですが、ここで聴かせて頂いた音と先の音との格差に仰天致しました。標準シェルとの組み合わせでの視聴では、全帯域、見事に統一感を持って引き締まり、低音には控えめで好ましい弾力感が感じられます。高音の抜けは当然素晴らしく、ここだけ比べると明らかに、Lyra HELICONを越えておりました(尤も、ハーモニーの柔らかみを崩さず高音を伸ばしているHELICONの方が、質は間違いなく上です。ただ、その半額以下の33Rの健闘振りは評価に値すべきものでしょう。高音がスパーンと刺激的に抜ける音が好みの方には、是非33Rをお試しください)。
驚きは続きます。三軒目はmiya氏宅でした。Shuks氏宅ではジャズのレコードでしたが、こちらではMay_Wind☆氏宅と全く同じ室内楽のレコードがありまして、大編成クラシックと併せて拝聴いたしました。出てきた音は悪くありません。いや、はっきり言って良い音です。音色の統一感も相変わらず良好。どこにもだぶつきがありません。氏はルームアコースティック対策にAccuphase DG-38を導入されているのですが、だぶつきがないのは決してその所為ではなさそうでした。これで「ジャズしか向かない針」というもので無い事が分かりました。
そして最後に私のシステムで検証した音は…fレンジはとても広く感じられ、低音は引き締まって弾みます。デンオン305の奏でる、弾力感のある低音を思い出させるものの、僅かに付いていた贅肉を更に落とした感じです。ART1以上に全帯域均整が取れて引き締まり、しかも適度な弾力感も兼ね備えています。例えるならば、まるで筋肉質な音でした。この筋肉質と言いますのは、外人の様な所謂逆三角形マッチョではなくて、昔の武芸者の如き筋骨隆々の均整の取れたものです。何故に最初だけが印象が悪かったのか?想像するに、持ち込んだの33Rが新品だった為に、エージングで針を馴染ませる途中での本調子ではない音だったのではという事と、May_Wind☆氏のシステムが、相当ナチュラルな音にチューンされていた為に、長所を殺しあったのではないかと思います。何れにせよ、四軒中三軒で、似たような評価が出ましたので、こちらが本当の33Rの実力なのは間違い無いでしょう。えっ、33R、私ですか?
好きです? 好きです! よし降参〜 だぁーもすみません、本当にもう大変なんですから。

音楽を寛いで聴かせる為の脚色は排除しつつも、逆に糞真面目で何の面白みの無い従来の和製機器とも一線を画した、良い意味で実に日本らしい音です。AT-ART2000でも、テクニカは従来の音作りから脱却しましたが、33Rは、それとも全く違う世界を表現する製品です。どちらが好みかは個人の嗜好の問題で(松下翁が愛用していなくても、33Rの完成度は疑う余地がありません)、現行のAT-33PTGで満足されている方には、取り合えず御一聴をお勧めしたいと思います。但し、値段は張りますが、33Rを超えるクオリティを持つ針は世に幾つも御座いますので、そちらをお選びになるのもまた、正解かと。
…こんな文章を調の字がチンタラ書いてる間に、ステレオサウンド社から「管球王国」31号が発売されてしまいました(Shuks氏が書き足された時間は僅か数日だけです。決して氏は遅筆ではありませんので、念の為)。小特集では往年の国産針聞き比べをされているではありませんか。まるで今回の企画に符合した様な偶然です。「これは面白い、ブロの判定を是非拝読」と読み進めていきましたが、読了後の正直な感想は「本当にレビューというものは難しい」というものでした。
非常に面白く為になる内容ですので、詳細は是非雑誌を当たっていただきたいのですが、そこで取り上げられていたFR-7とFR-7fの比較試聴記が私の興味を最もそそったのです。何しろ、改良型(しかも値段も上)の7fに対して、改悪と云わんばかりの口ぶりで批評を締めていたのですから。改良して値段も上げたものの質を落とす事は通常のメーカーならばまず考えられません。疑問に思ったら即実践あるのみ。幸い調の字とShuks氏は7/7fを持っていますので、追加試聴と相成ったのでした。
成る程。「管球王国」での評論家の表現は決して間違いではありません。流石、音のプロ…というか、それだけでなく、我々オーディオ愛好家の諸先輩でもあられる方々(新忠篤氏、海老澤徹氏、篠田寛一氏)の眼光は鋭いものでした。では何が引っかかるのか。それはこの批評の前提が文章からは推察しにくい事なのです。
二本の針に対するShuks氏の感想は氏の日記帳に有りますのでここでは割愛いたしまして、調の字の感想は、「音の出が実にクリア、見通しが良く、低音の伸びもあるが、帯域バランスは若干不揃いで、7と比べるとドンシャリ」の7f、「実に粒立ちの細い高音が、繊細感を醸し出す。スケール感は程々で大人しめ。音の明瞭度、立体感は7fが上」の7、というものです。尚も続けましょう。「FR-7は額縁の中の油絵なのです。そこには独自の世界がありますが、鑑賞者と絵画の間を遮るガラスがあり、絵画そのものを一枚ベールをかけて見ているきらいがあります。そして額縁という絵画のサイズを区切る限界もあります。要は、その絵が気に入るか否かで評価は二分するでしょう。片や7fには、ガラスも額縁も感じさせぬ出来の良さがあります。しかし、独自の世界は希薄で、他の針でも代用可能と思わせますし、調和感もいまいちの針です。」…
このFR-7という「絵画」を好まれるのは、クラシックを楽しまれる方のほうが多そうです。実際レビュー中のソースもクラシック(とポピュラー)中心でしたし、新氏はその畑の大御所です。また、同じく取り上げられていたグレースF-10Cの、ハイファイとは言えないが独特の密度感を有した音が高い評価を得ていた事。以上を考えれば、調和感が後退し個性を希薄にしたFR-7fよりも、悪く言うとこじんまりとしたまとまり方をしてるものの、クラシックをデリケートに聞かせる独自の世界を持つFR-7を評価していた事が理解出来なくもありません。
ただ、これらの前提は文章からはなかなか窺い知れぬものなのです。本当はこれらもきちっと伝えた上で批評を加えないと、評論家の主観が(当然ながら)加わった評価を、絶対評価として読み手が受け取ってしまう危険性があります。専門商業誌のレビューでさえこうでしたから、我々二人が思ったことを正直に書いても、それを絶対として読まれると「…全然違う!」と思われる感想も多々あるものと思います。今回の針試聴、慎重を期して二人で感想を述べ合いましたが、これらの感想に不同意な方がいらっしゃいましたら、その様な事情が主な原因と思いますので、何卒ご容赦を。また機会がありましたらお会いしましょう。それでは皆様ごきげんよう。