雑 記 帳

                        私の小さな宝物
                     

阿佐ヶ谷にヴィオロンという喫茶店がある。十余年の歳月をかけてRCAのオリジナル・モニタースピーカー(励磁型)をコーン紙の硫酸処理からボイスコイル巻きまで手作りで再現し、それを自作の真空管アンプで鳴らして、お客をもてなしている。(ステレオ別冊「ステレオのすべて‘95」私流オーディオ生活―達人のオーディオ遍歴と現在―P160〜参照)そのオーナーが、ベットルームのサブシステム用として創り、以前六本木にあったWAVEのクラッシクコーナーに限定品として納めた。そのアンプが西新宿の珈琲専門店「COZZO」にある。並みのサブアンプではない。  球は廉価汎用の5極管「6BQ5」である。シングル仕様で出力は5W程度である。パーツ類も「あるもの」を除いて特別な物を使っている訳ではない。「なーんだ」と思われた方、COZZOへ出向かれたし。我が耳を疑うこと間違いない。  秘密が4つある。開発コンセプトは「Simple is best」。ありきたりではない。

1. 空中手配線  アメリカにコニサーという130万円以上するイコラーザー単体アンプがある。最新のコンピュータ技術に基づいて配線図を起こし、完全空中手配線で造られている。プリント基盤など無い。手法は全く同じである。オーソドックスな手法だが回路図を見れば誰にでも造れると言う訳ではない。線材の長さ、パーツを取り付ける順番、半田ごてを当てる時間、どれをとっても製作者にしかわからないルールがある。一つでも間違えれば狙った通りの音が出ない。誰にも造れないハンドメイドである。アマチュアが1台だけ作るのとは訳が違う。それ故、このアンプは製作者が生存している限り、完全無料のアフターサービスが受けられる。機会があればアンプの裏側を覗かれたし。シンプルな結線の職人ワザが見て取れる。



2. 耳  上記「コニサー」と違うところがある。コンピューターシュミレーションではない。活きた「耳」で判断する。それも半端な耳ではない。まず耳の形が常人と違う。音を聞く耳を持って生まれた。いや修行を積んで耳の形が変わってきた。耳たぶが寝てないのである。集音機のごとく前方に立っている。その耳で製品一つ一つ音を確かめる。  徹底的に生の音を聴く。聴く耳の感性が鈍り出したら、ヨーロッパにオペラを聴きに行く。納得のいくまで帰ってこない。その耳で音を造る。測定器を駆使して物理特性を追及していくメーカー製アンプとは出発点からして異なる。技術屋では逆立ちしてもかなわない。職人ワザである。NFB(Negative Feedback)の量も自分の耳で確かめながら、最適なポジションを選んだ。それ故、このアンプの音は「活きている」。


3. トランス  一つだけ徹底したこだわりがある。トランスである。この球[6BQ5]を生かしきる為に100個以上のトランスでテストした。もちろん有名なT社やL社にも特注で作らせてみた。海外からも取り寄せてみた。フランスに1つだけ気に入った物があった。数がまとまれば次回はそのトランスで組んでもみたいという。今回は日本で唯一自分の耳にかなったトランスにめぐり合い、そのコイル巻きの職人に頼んで特注で造ってもらった。この球にはこのトランスしかないという。このアンプの「活きた音」の秘密はこのトランスにある。


4. シングル  普通この球は物理特性を追求するためPP(プッシュプル)で使われることが多い。出力も稼げる。しかし、あえてこだわった。 6S即ちシングル シンプル ストレート ショート スピード そしてスモールに。結果、音が活きたのである。音の立ち上がりも早い。試行錯誤があった。余計なものを削ぎ落とした。一本のワイヤーーの上に最小限の抵抗とコンデンサーを組み込み、入力信号から出力まで最短で結線しハイスピード化した。しかし左右独立アッテネータだけは設け、「道具」としての実用性は確保してある。これもまた音を楽しむための「道具」としてのこだわりである。一般家庭で少し能率の高いスピーカーで聞けば出力5Wもあれば十分である。これは個々人の価値観の問題である。ドンシャリ音や不自然な重低音を求める人には、はなっから勧める気は無い。
COZZOのマスター山本さん曰く「1日10時間以上音を出していても、疲れない。以前は石のアンプを使っていたが、いくら出力が多く出ようと、このアンプを使ったらもう石のアンプには戻れない。」山本さんは業務で使っている。毎日10時間以上それもおよそ3年間 。一度もトラブルが無い。単純かつ基本設計がしっかりしている証拠だ。球には寿命がある。寿命が来たら、気に入ったメーカーの球を差し替えて音の違いを楽しむ遊びもできる。現役生産中の球だけに、生産国にこだわらなければ千円以下で直ぐ手に入る。コストパフォーマンスは抜群に高い。

回路と製作そして出てくる音だけでも一聴の価値がある。さらにこのアンプの真骨頂は音を鳴らす道具としてだけの魅力にとどまらない「所有する喜び」の魔力を秘めている。それは「一つの夢」が形となって現れてきた過程を知った時、初めてうなづける。

厚さ3mmの最高級ステンレス材(SUS304)をレーザーカッターで穴あけをし、プレスで折り曲げ溶接して筐体を作った。角がRの一体構造である。小さい割にずっしりと重い。精密加工の板金屋さんの手による。

塗装はアルファロメオに使われているものと同じ塗料で車専門の塗装屋さんに頼んだ。もちろん焼付け塗装である。
側板は無垢の木(栃の木)の削り出し。5種類もの木で試作された。取っ手にもなる曲線の削り込みに職人技を見た。これも手作り家具専門店が製作を担当した。


このアンプはプロデューサーCOZZOの山本さんのイマジネーション、常識を打ち破ったアイデア、各方面の職人さんの協力、コーディネーターとしての手腕、そして何よりもこだわりと熱き想いがこの小さな箱には詰まっている。小さくも大いなる大人の「おもちゃ」なのである。




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