「ここに百円金貨を百枚ほど持っててね」
「うん」
「二人で五十枚ずつ、どちらが遠くまで行くか投げっこをしたら、さぞ愉快だろうね」
「なるほど、それはちょっとナンセンスでいいな、この世の思い出に、一度ぐらいやってみたいね」
「僕は一度やったことがあるよ」
「まさか」
「いや、本当だよ。もっとも百円金貨じゃなかったがね、山名耕作と二人で、
日本橋の上から一銭銅貨の投げっこをした事があるよ」
「何だ、一銭銅貨か、銅貨じゃ始まらんな」
「でも相当スリリングだったよ。しまいには人がたくさん寄って来てね、おもしろかったよ。(後略)」

横溝正史「山名耕作の不思議な生活」より

カートリッジの聴き比べ DENON編

2003/11/7

  


誰もが昔はVM針や103に一度はお世話になったものですが、最近はライラだZYXだのに興味が向いて、あの頃の事はすっかり忘れがち。しかし今もアナログ製品を手頃な価格で販売してくれている、テクニカさんやデンオンさんの針を集めて、Shuksさんと調の字が改めて振り返ってみようと云うのが今回の企画です。まずは日本のMCを支え続けるデンオンさんの103派生モデルをどうぞ。


DL-103S(楕円針とハイコンプライアンス化で高域を伸ばした最初の派生モデル)

調:フォントに喩えますと、103がゴシック体ならこれは明朝体。103の香りを留めつつも高域寄りのバランスになり、細かい表現力が増しましたね。しかしこの高音の表現が、時には却って喧しいと思う瞬間もあります。


S:周波数帯域を伸ばしたことで、繊細さはあるのですが、逆に中域の力感が後退した印象ですね。少しチャラチャラしたところもあり、それが耳につくこともありました。弦楽器主体のクラシックには弦の響きの余韻が綺麗で向いているかもしれませんが、ハードバップ系のJAZZにはもう少し中域のエネルギー感が欲しいと思いました。もっとも103シリーズで今も現役で使っているカートの一つではあります。

 

DL-103M(ボロンカンチレバーの採用や更なるハイコンプライアンス化で、103から最も離れた派生モデル)

調:静的でしっとりした印象が先に立ちます。細かい表現は出来るし、DL-300シリーズに備わっている低域の弾力感がこの針にも感じられます。質は高いのですが、惜しむらくは、スケールが小さくまとまってしまうきらいがあることでしょう。

S:ボロンカンチレバーに惹かれて購入したのですが、これはオリジナルの103とは違う音作りを目指したと聞いて、結局聴かずじまいで調の字さんにお渡ししてしまいました。直接聴いていないのでインプレは調の字さんにお任せしました。名前は103でも一連の103シリーズの音とは別物らしいですね。

DL-103GL(ボディの材料を強化し、線材に金線を使用した、最も高価な派生モデル)

調:決してfレンジが狭い訳ではないのですが、音の抜けが芳しくない印象が先立ちます。代わりに音の厚みとかコクとかが特段ある訳でもない。細かい表現も今ひとつでした。素質は高いと思いますので、シェルやリードの選定等の使いこなしに相当の配慮と経験が求められるのではないでしょうか。


S:金線のイメージから煌びやかな音を期待していたのですが、意外に音が暗く沈んだ感じの音ですね。スモッグがかかって見通しが今ひとつ。シンバルの音も重かったです。先入観抜きに聴き比べてみてもGLはオリジナルに比べても少し精彩を欠いた印象です。ボディの材質による影響もあるのではないでしょうか。確かカーボンファイバー製と聞いていますが、輝きがスポイルされてしまったようです。高価な割にはパフォーマンスが伴わないといった印象です。ただ調の字さんが仰るように、シェルやリード線で音も変わると思います。

DL-103C1(ボディの材料を強化し、線材にClass1 LC-OFC線を使用した派生モデル)

調:輪郭が太く押し出しの強い音が出てきましたね。バランスとしては中高域以上を若干押さえ目にして、低域に重点を置いた、作られた音作りと思います。しかしこのバランスが103をちゃんと髣髴させるところを留めている為に、違和感を感じさせること無く、太くエネルギッシュな表現に繋がるのでしょう。派生モデルとしては個性的です。

S:103シリーズの中で一番私の好みの音です。音の切れがあり、しかも酷がある。ビールのCMではありませんが、この太くしかも明るい音は5〜60年代のJAZZを聴くのに適しています。今回は直接の聴き比べは出来ませんでしたが103Rと似ている所がありますね。ボディもセラミック系樹脂、色も黒くて精悍です。惜しむらくはもう少し出力があるとS/N比の点で有利かなとも思います。

DL-103FL(ボディの材料を強化し、線材にDL-S1と同じ金クラッド線を使用した現時点最後の限定派生モデル)

調:C1のバランスをフラットにし、ほんのり潤った音色になってます。上下の伸びも不足無く、細かい表現も十分こなす実力派です。ジャンルを選べず楽しめるオールマイティーな針ではないでしょうか。

S:私は調の字さんとは逆に、もう少し明るさが欲しかったです。個体差もあると思いますが、C1と直接聞き比べるとおとなしい。少なくてもハードバップJAZZを聴く限りもう少し元気が欲しかったです。私的な印象ではGLに近い感じがしました。どちらかというとクラッシク向きのカートではないでしょうか。

 

調の字としては、どれか一本という事ですとFLを選びたいと思いましたが、ロックやハードバップ系のジャズには個性的なC1が好ましく思いました。しかしGLでの例は極端としても、他の針でもシェルやリードの選定で音は変わってきますから、手持ちのシェルの中から、好みの音にチューン出来る組み合わせは探す価値がありそうです。それ程、103シリーズは大抵の期待に応えてくれる素質を有しているように感じましたけれども、Shuksさんはいかがでしたか?

S:私的にはC1が一番よかったです。103シリーズの中でもインピーダンスが低く(それでも14Ω)、扱いやすいカートだと思います。高域の伸びも丁度良く、派手な明るさはありませんが、エネルギーが詰まった音で、音の輪郭も明瞭です。これは気に入りました。 

 

もとより自分の好みの音を基準にした戯言ですので、好き勝手なことを言っております。

それでは、次はテクニカ編をお送りいたします。