スギモトーンさんのトルクマネージメント
2003/12/06
確かにネジには理想的な締め付けトルクが存在する。ネジで取り付けられる側が金属か木材かで締め付けトルクの適性値が変わることは容易に想像がつく。また同じ木材でも材質、乾燥度、経年変化等で適性値も変わってくると思う。ミクロ的な話だが考え方の基本は十分理解できる。
一方で、私の知り合いの広木さんはグッドマンのアキシオム80というスピーカーを使われており、コーン紙を支えているカンチレバーを緩々に取り付けていると聞いた。全てのネジを緩め、音を聴きながら指で軽く締め付けているそうだ。緩みがきたらまた指で締め付けるらしい。低域は犠牲にしても、バイオリンやチェンバロの中域の音色がリアルにかつ柔らかく聴こえて、とても満足されていらっしゃるとのこと。
又人によってはユニット自体の取付けを緩めバッフル板との間に出来たわずかな隙間を積極的に振動させ、バッフル板も含めた箱全体のいわゆる箱鳴りを積極的に活かして音を楽しんでおられる方もいる。
そんな中トルクマネージメントでネジの適正トルクを管理すると音はどのように変化するのか、以前から好奇心が先走りとても興味があった。
スギモトーンさんはトルクマネージメントを始める前に、じっくりと我が家のシステムを聴き込まれた。

試聴ソフトは
@Christian Mcbride/Getting' To Itから10曲目のNight Train。先日T2さんのお宅で度肝を抜かされたソフトである。AボーカルにはXUXUのか・れ・はより2曲目の「LeftAlone」
B打ち込み系で宇多田ヒカルも。

私自身、部屋との関係もあり低域のキレ、かぶり、こもりが若干気になってはいたが、スギモトーンさんの診断は主に次の3点をご指摘された。
1.低域の質感がやや荒い
2.左右のスピーカーの音質差が気になる。特に左CHが暴れ気味で、試聴位置で聴く限り位相ずれを起こしている気がする
3.音の定位が今一で左右の音の合成がずれているようで音の広がりも不鮮明なところがある
そこでまずトルクマネージメントを実施する前に、基本に立ち返るという意味でセッティングを煮詰め、壁からの距離や床の高さ内振り角度を左右完全に対称になるように調整した。これは以前から私も気になっていが、一人では重くてなかなか移動なり、微調整ができなかった。
私の希望としては背面の壁からもう200mm離し後面を400mmくらい空けたいと思っていた。ところがスギモトーンさんは逆に壁に限りなく近づけ本来のモニタースピーカー的な使い方、即ち直接音を聴くことを薦められた。部屋が広ければ後面の空間をたっぷり取り、間接音も含めて音を楽しむことも出来るが、JBL4348は大型スピーカーなので中途半端なセッティングだと逆効果だとおっしゃる。現状の私の部屋の広さではニヤフィールドリスニングと割り切り、直接音主体のセッティングを強く勧められた。
![]() |
![]() |
| スピーカーのガタツキをチェック これは全く問題なし | 横壁、後壁からの距離を測定 |
![]() |
![]() |
| 試聴位置からユニットまでの距離を測定 | 左右の壁からの理想的な距離を計算 |
![]() |
![]() |
| 紐を使い左右のスピーカーの距離が均一になるよう調整 | |
ここでスギモトーンさんのプロフィールを少し。彼は某スタジオの録音部にお勤めのいわゆるスタジオ技師、プロのエンジニアである。因みに職業柄、日本の代表的なスタジオの音はほとんど聴いていらっしゃるそうだ。日本でのスタジオのモニタースピーカーはほとんどジェネレックのラージモニターが主流だそうだが、残念ながら本来の性能を出し切って使いこなしている所は少ないらしい。
そんな中トルクマネージメントに出会い、4年近く手がけておられる。トルクマネージメントはスピーカーを決してモニター的にするのが目的ではなく、またオーディオ的にする事でもないそうだ。導入のきっかけは、純粋に音楽を聴く事に集中できる様になったからだそうで、それが一番うれしかった事だとおっしゃる。
左右の壁からの距離、内振りの角度、後壁からの距離を試聴位置から音楽を聴きながらカット&トライで煮詰めていった。位置決めに用いたのはメジャーとカメラ用の三脚と紐。もしレーザーセッターがあると位置決めが簡単にできるのだが、何度も使うものではないので、今回は三脚と紐で試聴位置からの位置決めを行なった。
三脚に結びつけた紐で左右のキャビネットまでの距離を測り、同じ距離になるようにスピーカーを僅かずつ移動させる。内振りの角度を調整するのに結構時間がかかった。重い大型スピーカーなので、微調整するは結構大変だった。
結果的に左右からの壁から810mmずつ離し、背面は35mmと190mmになった。キャビネットの内側は35mmと、ほぼ壁に付く感じになった。試聴位置から見ると右CHのスピーカーが僅かに引っ込んでいるが、これは見た目よりも音質重視の結果子のようなセッティングになった。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
スピーカーの移動のついでに水平も測り直し、水平出しも行なった。現状、正面向かって右側に機材(200kg位の重さがある)が集中しており、床面自体が僅かに傾いている。スピーカーを支えているIronAAの「シャフト弁慶」+ローゼンクランツのポイントベースビッグジャズの間に使用済みの写真を一枚一枚挟み込み仮の水平出しを行なった。後日写真の代わりにアルミ箔を挟み込む予定。
ここで今日のリファレンスソフトを聴いてみた。セッティングを煮詰めた音の変化の度合いはかなり大きかった。JBL4348は従来の43シリーズと異なり、ユニットがインラインに統一されて配置されている。もともと定位の良さが売りの一つだったが、セッティングを煮詰めたことで、従来よりも明らかに音の定位が良くなった。内振りの角度は以前よりも深くなり、左右の距離も縮まったので、音場感、音の広がりに欠けるかと懸念していた。ところが想像に反して、音像は小さくピンポイントに定まり、逆に音の広がりは以前よりも上下左右に伸びている。これは意外だった。
また後壁からの距離はほとんど無いので、低域の共振が増え低音がよりこもって聴こえるかと思ったが、音のエネルギー感は増えた割には低域のこもりはほとんど感じない。試聴位置がニヤフィールドというのが幸いしているからであろうか。
スギモーンさんも満足されたご様子で、特にはじめ気になっていた左右の音質的な差がほぼ解消されたおっしゃる。実は私は結構アバウトな人間で、スピーカーのセッティングではミリ単位の調整などしたことがなかった。というかこの辺のところはいささか懐疑的で、首を左右に振っただけで聴こえ方が違うとなれば、安心して音楽を聴く事に没頭できなくなる。否今まで余りそんなスタンスで音楽を聴いてこなかった。聴くジャンルがJAZZ中心なのでオーディオ的にではなく音楽的、音場や解像度より演奏そのもの躍動感、音の厚み・エネルギー感を求めていた。
但し、セッティングを煮詰めないよりは煮詰めた方がいいとは思っていた。今回数時間にも及ぶ微調整で基本を押さえる事の重要性が少し分かって来た。部屋との関係で一度きちんとセッティングを行い、まずはその音を聴いてみないと、その後に続く違いは見えてこない。今回のセッティングで、音の密度が高まりエネルギーが試聴位置に集中してきたのが確認できた。
ステレオ再生の場合、録音ソフト自体が左右対称・均一の環境条件下で聴く事を前提として作られている訳だから、セッティングの段階でもまずは可能な限り同条件になるよう追い込んでいくのが理想。その基本を押さえた上で、実際には部屋の広さや造り、試聴位置等の条件で微調整していく。私のように初めからからこの辺がいい加減だと(それでも結構煮詰めたセッティングは行ってきたつもりではいるが)、いろいろ調整しても何が正しいのか分からなくなる。T2さんも仰っていた、「基本を押さえた上で、変化をみる時は一箇所だけ変える」
次に電源周りの整理を行なった。現状、壁コンの口は2つ。一つはパワーアンプのi-1へ直結、他方は6口ボックスに繋ぎ各機器へ分岐している。以前テスターで電位差を測った時、3Pをそのままコンセントに差し込むと電位が上がってしまったので、2P変換アダプターを噛まして+−を逆にして機器への電位を下げていた。3Pをばらしてケーブルを左右に繋ぎ変えればよかったのだが、安易にアダプターで事を済ましていた。壁コンと3Pとの間に余計な物が挟まっている。これは音質的にも精神的にもよくない。今回これを取り外し、再度電位を測り直して見た。

あら不思議、アダプターを外した方が電位が低くなっていた。そこには色々伏線があるのだが、長くなるので割愛する。電源周りの整理の過程でアコリバのスーパーアースリンクRE-9の操作ミスでブレーカーを落としたり、テスラクランプのヒューズを飛ばしたり、細かいトラブルがあった。アース対策、電磁波対策グッズは我が家では測定上の効果は確認できたが、それが音質にどの程度貢献しているのか、試聴上ははっきり分からない。とりあえず今回は皆外してみた。

ここまで下準備をして、いよいよトルクマネージメントの開始である。
(トルクマネージメントの詳細についてはシンプソンのサイトをご覧下さい。
またO崎さんの Audio日記 Torque編(2003/01/25〜02/14)MyWindさんの トルクメネージメント特集http://www.ad.il24.net/~maywind/TORQUE-MANAGEMENT.html 是非ご覧下さい。とても分かりやすく詳細なコメントがあります。)
手順はシンプソンのサイトに書いてあるとおり。
まず調整したい機器をトルク・ドライバーで測定し、その値をソフトウェアに入力すると現在の正確な締め付け状況、さらに締め付けの推奨値そして調整可能範囲が自動計算で表示される。あとは推奨値および好みに応じて調整可能範囲内の値をトルク・ドライバーに設定してネジを締める。
具体的には現状のネジの位置をマークしておき、トルクドライバーを使ってネジを緩める。ネジが緩み始めた瞬間の数値をパソコンの専用ソフトに打ち込み、次は逆にネジを締め増しマークした元位置に戻る時の数値をソフトに打ち込む。シンプソンの最新ソフトには代表的なスピーカーの適正値・基準値(テンプレート)が予め入力されている。それと比較しながら現物あわせで細かくトルクの値を計算していく。
![]() |
![]() |
| SIMPSONのトルクマネージメントドライバー | TMS Software 3.07 |
![]() |
![]() |
| マーキング・ペンで現状の位置をマークしておく | マークの様子 |
![]() |
![]() |
| トルク・ドライバーでネジが回り始める値を確認 | それぞれのネジのトルクを測定 |
![]() |
![]() |
| ネジのトルクの値をPCに入力 | ソフトによる計算結果の数値で締め増し |
![]() |
![]() |
| 立会人の調の字さんにライティングの補助を依頼 | JBL4348用のテンプレート |
![]() |
![]() |
| トルクマネージメントドライバー | ロックドライバーで最終調整 |
![]() |
![]() |
| アッテネーターの調整 | 最終調整値 |
| 続いて電源周りのトルクマネージメントを行なった。 | |
![]() |
![]() |
| 壁コンセント(CSE)のトルクマネージメント | プラスチックのカバーは取り外す |
![]() |
|
| ヒヤリングを繰り返しながら調整 | |
調整は3時ごろから始まり、両chのウファー・ミッドバス、壁コンのマネージメントを終えたのは9時を過ぎていた。およそ6時間に及ぶ調整の結果は以下の通りとなった。

表を見て分かるように調整前の元のトルク値はミクロ単位で左右のユニット、ネジ一つ一つ比較しても全てバラバラである。これをソフトが割り出した決定値(Mid=88.5cNm Woofer=122.0cNm)に一本一本のネジを合わせた。
調整後の音は
@セッティングの見直しとの相乗効果も手伝ってか、以前に比べて音のエネルギーが試聴位置に集中するようになった。ような気がする。
A音の定位がより鮮明になった。音像が鮮明になり音の立体感も向上した。ような気がする。
B低域の荒さが取れ、音が整理されて聴こえるようになった。ような気がする。
Cリファレンスソフトを聴き直してみると、マクブライトのベースはぐっと引き締まり、弦が震える音像に厚みが増した。
「ような気がする」と書いたのは調整前の音と直接聴き比べた訳ではなく、あくまでも記憶音との比較であること。それぞれのユニットをトルクを変えながら調整したので、その都度マネージメント前後の音を比較しながら適性値を決めていったので、全てのマネージメントが終了した時点では最良の音に仕上がったはずだからである。正直なところ私にはミクロの1.0cNm単位のトルク値の違いを聴き分けられる能(聴)力は無い。仮にネジの1本を緩めた音を聴かされてもその違いなど分かるはずもない。
しかし今回のチューニングの結果トータルで音が整理されてきた、そして音像集中と音場感の広がりのバランスも取れていることは聴感上確認できた。今回のチューニングはソフトの推薦する推奨値であり、JBL4348の基準音、メーカーの意図したいわば基本の音である。全てのネジのトルクがミクロ単位で全て均一化している。この基本音をまずは押さえた上で、もし音に不満が出てくるようであれば微調整をすることになるだろう。但し、今日聴いている限りでは、オーディオ的にではなく音楽的に楽しく聴けるのでなんら不満はない。あとはホーンドライバーの調整が残っているが、当分は今の音で不満は出ないように思う。いずれにしても新たなスタートラインに立った。
スギモトーンさん、そして調整に立ち会って頂いた調の字さん 長時間にわたりありがとうございました。この部屋でのJBL4348のファンダメンタルが整い、精神的に安心できたこと、そして何よりスギモトーンさんとの素晴らしい出逢いが嬉しかった。