【サウンド・ピット】
遠距離恋愛ではないが、名古屋で三重からの講演帰りの伊藤さんと落ち合い、伊藤さんのメンター的存在坂口さんのお店SOUND-PITを訪問する。
SOUND-PITには現代の最先端のハイファイ機器の部屋、ヴィンテージ・オーディオの部屋、そして隠れ家的音楽鑑賞の部屋の3部屋があり、それぞれにファインチューニングされた素晴らしい音を楽しむ事が出来る。オーディオファンなら一日居ても飽きることがない。
New Audioの部屋で坂口さんの手によって微細に調整されたアヴァンギャルドの『META PRIMO』をたっぷりと聴かせて頂く。今まで何度かアヴァンギャルドのSPを聴いたことがあるが、アヴァンギャルドに対する印象が変わってしまった。寄り添う下流のパワーアンプ等に正確に追随して音色・音場を再現しきる音楽性豊かなトランスミッターという印象である。
始めはパワーアンプをFMアコースティックス FM411に繋いでJAZZを聴かせて頂く。クラリネットをフューチャーしたカルテットだったが、木管の響きが柔らかく、空間に浮かび上がったその音色の質感はホーンスピーカーで聴いているとは思えなかった。一方ベース、ドラム、ピアノは骨格が鮮明で各楽器の雰囲気、佇まいが非常にリアルに再現されている。
坂口さんはJAZZなどのオンマイクの録音にはFMアコースティックは似合うが、クラシック音楽などのオフマイク録音には音が前に出すぎると仰る。そこでHOVLANDのRADIAというパワーアンプに切り換えて実証してみて下さった。なるほど、ホーンスピーカーにもかかわらず、音場はスピーカー後方に広がる。
聴かせて頂いたのはダイナミックレンジのすこぶる広い優秀録音盤 ゲルギエフの「春の祭典」。聴き所は地響きを伴って繰り出される管弦楽の大音量から一転してピアニシモの静の世界へ移行する音の消え入り方、地下数十メートルにまで達するかのごとき打楽器のパルシブな衝撃音とその後の余韻。ハイスピードな立ち下がり、リアリティ溢れる再現にはスピーカーそしてパワーアンプの能力が高く要求される。
おいしい所だけ聴こうと思っていたが、興奮の余り全曲通して聴いてしまった。聴き終わったあと心地よい疲労感に包まれる。心の琴線に触れる音というのがあるが、メタプリモはハラワタの五臓六腑に染込む音である。


耳に超ハイファイなメタプリモの鮮烈な余韻が残りながらも、隣の喫茶室兼ヴィンテージ館に移動する。坂口さんの奥様が淹れて下さった珈琲を飲みながら、時代は一気に遡り、励磁スピーカーやら管球アンプの音を聴かせて頂く。
KEFの初代BBCモニター、オリンパス、ジェンセン等々古いスピーカーをマッキンのC-22&MC60で聴く。管球アンプはどれも綺麗かつ状態がいいのに驚く。中にはメッキも含めてオリジナル部品でフルレストアされたアンプ類もある。
音を聴いて何故かほっとする。生音のリアリティこそ出ないが、音楽の雰囲気、温もりが味わえて心が和む。人間の可聴帯域全てが満遍なく出された音は、確かにハット息を呑む鮮明さがあるが、暫く聴いていると疲れる時もある。ボーカルを聴いていて、バックの余りのリアルな演奏が五月蝿く感じたり、音数が多すぎて人の声に集中できなくなったりする。確かに人間の目や耳は必要な情報だけをピックアップしてそこにフォーカスを合わせて増幅させる機能がある。しかし始めから音がなければおいしい所にだけ耳が傾き安心して音楽そのもにどっぷりと浸ることができる。
何年か前にハイヴィジョンTVを購入した。購入当初はその綺麗で鮮明な画像に驚き、ことのほかハイヴィジョン放送を選んで見ていた。ハイヴィジョンの画像は髪の毛の一本一本まで克明に描き出す、時に女優の首筋の化粧の跡までも。実像・自然に近い画像で映像を楽しみたいという気持ちは叶ったが、最近は地デジも含めて余り見ない。ハイヴィジョン画像の特徴を活かした番組が少ないことも見なくなった要因である。
野球放送を見るとき何を優先して見るかといえば、ゲームの流れであって、キャッチャーミットの鮮明さではない。ドラマを見るときはそのストーリーの面白さであって、女優の目鼻立ちの綺麗さではない。一方自然の風景や美術館の作品紹介等の番組ではハイヴィジョン画像の優位性が表に立つ。まあ野球放送をハイヴィジョンで見ても弊害はないが、小津作品、例えば「秋刀魚の味」など克明映像で見てしまうと「味わい」がかえって損なわれてしまう。見え過ぎるのも時として困ることがある。機器の特性に合った作品(演奏)を選ぶという思慮はヴィジュアルもオーディオも共通している。


素性の分からない一見の客には聴かせないという特別室?に伊藤さんのお陰で入れて頂いた。いわば坂口さんのプライベート空間である。ALTECの604【C】という励磁型の珍しいユニット、タンノイのオートグラフ(モニターゴールド仕様)が置かれている。部屋にはモニターゴールドのユニットが何セットも置いてあり、坂口さんの嗜好が覗えた。
雄大な音の響き、締まった厚い音、どちらも甲乙付けがたい。ソフトによって使い分けするという点ではレベルは違うが私と同じである。



SP原盤から録音したシュタルケルのコダーイ 無伴奏チェロソナタ
実はオートグラフで聴かせて頂いたシュタルケルのコダーイ、
今日聴かせて頂いたどのソフト・どのシステムより心に響いた。
心を鷲掴みにされたような迫力とエネルギー感は音力とは何かを教えてくれる。
シュタルケルの怒りにも似た気迫迫る演奏は本質を知れともいわんばかりであった。
今日の案内役伊藤さんがこんな話をされていた。
「僕は、オーディオ好きな皆さんが、どうしてSPを聴かないかが不思議なんです。原点を知っているのと知らないのでは、楽しみがぐっと違ってくると思うんですよね。まあ、僕が只の懐古趣味なのかもしれませんが。SPを聴くと、音楽を大切にすると言うのがどういうことか分かる気がするんです。
それと、音のシャープさとか切れ込みとか、SPを聴いてしまうと、ほかは皆生ぬるく聴こえます。もちろん音源によりますから、全部がそうという事でなく、いい音源に出会えたら、と言う意味ですけどね。
ただ、常々思うことですが、やはり原点が何かということは知っておくと、迷った時にもとに戻りやすいですね。
これは趣味も仕事も同じではないかと。偉そうな言い方になりますが、SP盤を扱っていると、CDの簡便さが異常に思えてきます。SP盤がデリケートなのと同様に、音楽そのものもデリケート(大切)に扱うべきものだということを、僕はSP盤から教わった気がします。あるいは針の方が盤よりデリケート(脆い)だとか、音とは振動であるとか。音はデータではないぞって、SP盤が教えてくれます。」
音楽はデータではないぞ。けだし名言だと思います。その言葉に感化されています。
-閑話休題-
坂口さんのベストチューニングを施した機器で新・旧・古代とそれぞれの音を聴かせて頂き、満たされたひと時あった。こういうオーディオ店がそばにある名古屋近辺の人は羨ましい。
10/18
【安西邸のルームチューニング】
布団をかぶってラジカセの音を聴いたことがある。えらく生気のない痩せた音で、音楽を聴いても楽しくない。デッドな環境は決して音がクリアーではなく、躍動感のない寂しい音だ。一方、風呂場で鼻唄を歌うと自分が三橋美智也にでもなったかのようにいい気分になる。が、そこでラジカセでも聴こうものならワンワン響いて音楽にならない。例えは極端だがルームチューニングは一筋縄ではいかない。
新居に引っ越してくる前の安西さんの部屋は、割りとデッドな音響環境だった。こちらに移ってからは逆に部屋の響き過ぎが気になりカーペット等で響をコントロールしていた。天井の形状に一工夫が為され、部屋も適度に凸凹があり、定在波の発生は少なめである。耳に付く厭な響きはなかったが、音響環境として適切か否か専門家による診断を願っていた。縁あって今日はサーロッジクの村田さんにチューニングのデモに来て頂き、私も立ち合わせて頂いた。
村田さんはチューニング前の安西さんの部屋について、残響時間も長く適度にライブな響があるとしながらも、床のカーペットは除去すべしとの指示を出された。ルームチューニングは出来るだけライブな状態からスタートして部屋の響をコントロールするというが村田さんの手法の様である。
手始めにチューニング前の部屋の特性をPCで測定する。


音響用カーペットを敷き詰めた状態で測定したのが、上記の画像。一つの基準として500Hzの残響レベルを見ると、0.49sec。残響レベルとしては標準的なところのようだ。高域はレベルが高くなり0.8sec以上に達している。LVパネルでうまく響を拡散させると伝送特性が変化し、音楽が楽しく聴けるようになるとのこと。安西さんも私も期待が高まる。
ここから孤軍奮闘、徹夜明けの村田さんの8時間以上に渡るチューニングが始まる。デモ用LVパネルを設置しては音を聴き、聴いてはセットし直す。安西さんも積極的に注文を出し、好みの響に仕上げて行く。グライコの調整のようにリセットは簡単ではない。想像以上にしんどく、根気のいる作業である。自分の好みの音をしっかり持っていないと支離滅裂になる。



最終的に煮詰まったのが上記の状態。カーペットを取り除いても、500Hzではかえって残響時間が短くなったが、低域の量感は増え中広域も活き活きととして躍動感ある響きが出てきた。
チューニングの様子はこちらから
スピーカー間にVの字のパネルの設置は音響的に効果的だ。以前Vの字セッティングを行なっていたが、、スクリーン設置の関係でフラットに戻してしまった。今回のチューニングで、再度金Bさんの拡散パネルを楔形にセットしなおした。プロジェクターのスクリーンを下ろせるぎりぎりの角度まで拡散版に角度を付ける。試聴ポイントは狭くなったが、音像の定位は今まで以上に鮮明になる。音の左右への広がりも増えた。

10/15
【L04 at 岡さん宅】

初期バージョンのベンツマイクロL04を持って岡さんのお宅にお邪魔する。使い込んでいく内にL04がいい感じになってきたが、完全調整済の岡さんのL04と聴き比べると、低域の量感で差が出た。個体差というよりもやはり構造上の違いなのではないか。岡さんのL04はシェルもリード線もジェネシスの特別バージョン物であるが、それを差し引いても低域の厚みと深さそして切れ込みは一枚上手であった。一方で高域の繊細感・情報量の多さは初期バージョンも引けを取らない。源流の潔さを感じた。

シカゴのジャズピアニスト ジョン・ライトのサウス・サイド・ソウル。OJCのステレオ盤とPRESTIGのオリジナルモノラル盤を聴かせて頂いた。再発OJC盤もなかなかいい。J.ライトの粘っこいタッチとアーシーな雰囲気が存分に味わえる。オリジナル盤を聴かなければもうこれで十分なくらいに黒い。さすがにオリジナル盤はモノラル録音ということもあってか、音の密度が高く濃い。音の塊が力強く飛び出してくる。

〆はいつものようにたっぷりとSPを聴かせて頂く。野本さんに対抗してか、ダイヤルのパーカーに驚いてはいかんとばかりに、マーキューリーのBACK
HOME BLUESを聴かせて頂く。SPの録音も玉石混交とは思うが、状態のいいSPで聴くパーカーはLPやCDの音よりより遥かにエネルギー感に満ちている。
ブルーノートのSPは状態も良く、マイルスのペットが生々しく耳元を襲った。
10/14
【久々のピピエコさん】
まだ時差ぼけで時間の感覚が乱れていたが、夜久しぶりにpippinechoesさんとお会いする。是非お連れしたい方がいるとのことで、大阪のJAZZ好きの映画人ハジメさんを紹介された。
私も暫くぶりに隠れ家でJAZZを聴く。留守中全ての電源を落としていたので、機器が温まるまで時間がかかると思っていたが、さすがに真空管の方は立ち上がりが早い。ランサーはのっけから結構いい音を出してくれた。夜10時は回っていたが、少し音量を上げビール片手に三人で音楽を楽しむ。
ライブのエネルギー感と臨場感がまだ頭から離れていなかったが、オーディオで聴くJAZZもやはり素晴らしい。常にベストポジションで聴けるし、音量も曲に合わせて自在にコントロールできる。気分に合わせてお気に入りの曲を選ぶことができるので、ポジティブに音楽を自分のものとすることができる。生の音楽の代替などという消極的な捉え方をすると人生がつまらないものになってしまう。で、のめり込むのも良し悪し...
ハジメさんはJAZZについて大変造詣が深く、ピピエコさんのJAZZ師匠であるが、オーディオについてはそこそことのこと。ピピエコさんにはどうやら「ある魂胆」があったご様子。ハジメさんに何やらしきりに囁いている。耳をそばだてると
「アナログの音もいいでしょう。こんどハジメさんのところにお邪魔したらガラード301が置いてあったりして...」
極悪人と言う言葉を思い出した。「親身に相談に乗ってあげているふりをして、実はそれとなく機器のグレードアップを囁く」 いやいやピピエコさんは決して極悪人ではありませんが...。
ハジメさんとは「JAZZ」という共通言語のお陰ですぐに意気投合し話も弾んだ。惜しむらくは短い時間だったので、ハジメさんのリクエストに十分お応えできなかったのが悔やまれれる。
ハジメさんは映画作りのプロの方なので、次回お会いした時は映画のお話も少し聞かせて頂くつもりである。

ハジメさんと気安く呼んでいたが、後で名刺をよく見たら有名な映画会社の支社長さんであった。
失礼しました m(_ _;)m
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